「精神疾患はつくられる―DSM診断の罠」 ハーブ カチンス
DSMは精神疾患を診断するための基準を記載した書物。支持派と批判派の双方の意見を知っておくのが大事だと考え、この本を手にとった。前述のとおり立花隆の本を紹介する本の中で、チェックしておいた本だ。
DSMの功罪はあると思う。そしてこの本は、後者に重点を置いて書いている。確かにDSMによって、それまで個人的な基準に則って診断されていた精神疾患に対して信頼性を挙げることができたと思う。しかし、DSMを金科玉条のごとく、崇め奉るのもどうかと感じた。
多くの身体疾患の診断基準も、絶対的なものではなく、変わっていくものだ。それと同じようにDSMもより科学的な診断を目指して、作った発展途上のチェックリスト・診断基準であることをわかった上で用いるべきだ。そして、拡大解釈、拡大運用される際は注意を要する。
DSMに含まれる多くのチェック事項のうちに、日常生活への影響があるかどうかを判断しなくてはならない、というものがある。それは、個人の置かれている状況によってあまりに多様であり、そこからも診断に難しさが見て取れる。
DSMの使い方を知ってはいたが、その成り立ちまで知ることができ、面白かった。科学的診断をしようという正の力と外圧や利権といった負の力の双方を内包して、こころの病を創られる。
こころの病の診断基準を通して、アメリカという国の抱える構造的な病(差別、偏見)を浮き彫りにするという試みは面白い。
そして、金科玉条と思われがちなものに対しても批判的な意見を述べる風潮は健全であるし、羨ましいとも思う。
「ブラックジャックによろしく ~精神科編~」を読んで面白いと思った人にはお勧め。